ここで
まごころ茶屋「兵六玉」の名前の由来をご紹介します。

兵六さんの優しい気持ちで、皆さんをお迎えしたいと、
スタッフ一同あなたのお越しをお待ちしています。

昔、昔、山の国(山形地方)に酒い目という村がありました。この村は、狩人部落と呼ばれるほど、沢山の鉄砲撃ちの名人がおりました。

その中でも名人中の名人と呼ばれる狩人は、名前を兵六といい、嫁に早く死なれ一人娘と二人で暮らしておりました。兵六の鉄砲は、百発百中、大木の陰に隠れている獲物も、曲がった岩穴の奥に潜んでいる獲物も、一発で仕留めてしまうとさえ言われていました。

ある年の秋のこと、その兵六にとても嬉しいことが起こりました。十六になる一人娘のおきよの、嫁入りが決まったのです。ところが貧しい兵六には、嫁入りの支度金がありません。

その頃、銀色の月の輪熊が人々を襲い、恐れられていました。
その月の輪熊を仕留めれば沢山のお金が貰えると言うのです。兵六は銀色の月の輪熊と聴くと辛く悲しい気持ちになりました。それは、兵六がずっと前に狩のときに怪我をして十日、十晩苦しんだ時のことでした。医者に「生きた熊の肝を傷口に付けなければ助かる術は無い」と言われ兵六は、看病で疲れているおきよがうとうとしている間に、傷を負った体で一人山に入って行きました。傷ついた体を引きずりながら熊の姿を求めさまよい歩き、やっと一頭の熊をみつけ夢中で引きました。

バァ–ン。

熊の肝を傷口に付けた兵六は、気を失いました。
気が付くと傷はすっかり良くなっていましたが、谷をへたでた向こうの山で銀色の月の輪熊が悲しげに、そして憎しみを込めた目で見つめているのに気が付きました。兵六の仕留めた熊は、身ごもったメスの熊だったのです。身ごもっている連れ合いを殺された熊が人々を襲い始めたのはそれからの事でした。

村人に熊を仕留めてくれるようにと、頼まれた兵六は、ある日たった一人で山に入りました。
山に入って五日目、兵六はついに銀色の月の輪熊と出会いました。熊は、妻と子供を殺された恨みを込めた目で兵六を睨みました。兵六は涙で見えなくなった目で狙いを付け引き金を引きました。

バァ–ン。

その後、銀色の月の輪熊が現れたと言う話は聞かれなくなりました。
春になり、おきよが嫁いだ何日か後、鉄砲撃ちの名人兵六は村から消えてしまいました。
一度は自分の命、もう一度は娘のために殺した銀色の月の輪熊に詫びるため、大切な鉄砲を残したまま何処かに行ってしまいました。

狩人とは言え心優しい兵六の「まごころ」が村人に伝わりました。
その後、風の便りも兵六の事を聞くことはありません。

時のめぐりの中でさまざま変わり、今では「兵六玉」の事を「曲がった鉄砲玉のように行き先の解らない人」を指して言われるようになりました。